中堅企業のためのグローバル化最適解を考察するブログ

中堅日本企業のグローバル展開をどう進めるのがベストか? 海外勤務22年のノマドビジネスパーソンが、同じ立場で悪戦苦闘されている方々の参考にしていただけそうな経験に基づく情報を発信してまいります。

出島方式を実現する方法論3:出島を任せられる人材の要件を考えてみる2

 前回では出島トップの人材を外から獲得する前提でその必要要件を説明した。 内部にトップを任せられる人材が居てくれれば良いが、そういう社内人材がいるところはほとんど無いのが現実である。(だからこそ、グローバル展開で頭を痛めているのである。) ただ、これは中小企業に限った話ではない。 ごく一部の優良企業を除いて実態は同じであると思う。 そうするとやはり多少カネがかかっても外部からそういうことのできる「傭兵」を引っ張ってくるしか無い。 しかし、やはり海外事業のサステナブルな成長を目指すためには、ずっと外部人材に依存し続けるのは健全な姿ではない。 今はまだ実力不足でも、そういうポテンシャルを持つ人材を社内で抜擢して、よく考えたプログラムでトレーニングをしていくことが必要である。 この場合の社内人材というのは、もちろん国籍や性別は一切問わない。 理想的な姿は、最初に獲得した外部人材のノウハウを内部人材が吸収する、こうして育った内部人材が次の人材育成にあたるという好循環が生まれて初めてサステナブルな海外事業の成長が可能となる。 
 
 このサイクルには一回あたり5-10年は必要であり、これが2サイクル、3サイクルと回って初めて組織に定着したと言える。 グローバル化とはかくも時間のかかる、ある意味「道」(茶道や柔道といった)のような取り組みなのである。 時間がかかるからこそ、何とか国内事業で儲かっているうちに一刻も早く始めなければならないのである。 
 
 次に社内で将来のトップ人材候補生を抜擢する場合、どういう点を考えるべきか? 前回述べた「目線の高さ」は必要条件である。 「自分は将来海外現法トップになりたい。 そのための努力は厭わない。」という強い意志。 単なる憧れだけではダメである。 以前ナイキのフィル・ナイト会長が、「一流のコックになりたいと思うなら、1日23時間厨房にいても苦痛にならないという人でなければダメである。」という意味合いの話をしていた。 経営者もある意味これと同じで、一流の海外現地法人トップになりたいと思うなら、寝ている時間以外は全てどうやったら海外で実績をあげられる経営者なれるかを考えるのが苦痛にならない人でなければダメだと思う。 ただ、最初はそれほどでなくても、やっているうちにいい意味で代わってくるということもある。 ここが難しいところである。 何をかくそう私もそうであった。 最初はとにかく海外に出たい一心で転職して日本を脱出した。 今考えてみると、その時点で現地法人トップに憧れは持っていたが、強い意志があったかどうかは?である。 海外でポジションが上がったり転職したりするごとに、「ああ、自分はこれでは全然アカンな。 実績を挙げることのできるトップにならなければ、そのうち食いっぱぐれるな。 でも逆にそうなれれば、いくらでも仕事は見つかるだろうな。」という気持ちがより強まっていったように思う。

出島方式を実現する方法論2:出島を任せられる人材の要件を考えてみる

(今回から文体を変えさせていただきますのでご了承ください。)
 出島として選んだ拠点のトップを誰に任せるかというのは、海外事業の成否を左右する重要な点であるので、その要件を考えてみたい。 まず、外から採用する場合について考えてみる。

1.実績がある
当然のことながら、海外拠点のトップマネージメントとして、過去に具体的な成果を挙げていること。出来る限り複数の組織、もしくは複数の拠点において実績を挙げていること。 あとで説明するが、成果を評価するにあたっては、コスト削減と成長戦略両面において、具体的にどのような成果を挙げたのかを詳しく見る必要がある。


2.目線の高さ(≒自己と組織の成功に向けた健全な野心をもっている)
経営者として、更に高い成果をあげたいという、高い目線を持っていること。 そしてそれを実現するための努力を本人が続けていること。
 
 自分自身、採用する立場となることもしばしばあるのでよくわかるが、この2つを満たす人材というのは実に少ない。 おそらく、人材紹介会社のサービスを使った場合、50人程度を書類選考し、そのうち5-10人程度を面接、その中に一人「この人を採用したい」と思える人が居れば良い方であろう。 但し、最終的に条件交渉がまとまらずに採用に至らないケースもあるので、とにかく時間がかかると覚悟しておいくこと。 
 
 私は日系企業の海外現地法人4社においてハンズオンでマネージメントを行ってきた。 その経験に基づいて、上記1について若干補足したい。 日本企業のの海外現地法人の業績が良くない場合、その原因は「やるべきことができていない」という点に尽きる。 この「やるべきこと」というのは、一言で言えばとコスト削減と成長戦略の実行である。 更に、この成長戦略というのは、成長のための戦略策定と、その戦略を確実に実行できる組織作り(システムと人材育成)から成り立つ。この中で、コスト削減は比較的容易である。 「比較的容易である」というのは、どの組織でも、どういう具体策を打てば良いかはおおかた共通しており、それらを徹底して実行すれば、短期間で確実に成果が上がるという意味である。 一方で、成長戦略というのは本当に難しい。 その組織によって直面している課題が大きく異なっている上、サステナブルな成長を実現するためには、組織作りと人材育成も欠かせないからである。  
 
 外部人材を採用する場合、まずは定量的な実績(例えば、「3年間で売上XX%増、利益XX%増」)を見ることはもちろんであるが、その実績を挙げるために具体的にどのような取り組み(コスト削減、成長戦略、組織作りのための打ち手)を実施してきたのか、それぞれの取り組みにおいてどういう点で苦労したかを深掘りして質問することがそれ以上に重要である。 以前は「経営はヒト、モノ、カネ」と言われていたが、最近は「ヒト、ヒト、ヒト」と言われることが多くなってきた。 企業にとってグローバル化やITによるイノベーションを導入するにあたって、本当に必要な人材が極度に不足していることの現れであろう。

出島方式を実現する方法論1:全体像とスケジュール

 では出島方式をどうやったら実現できるのでしょうか?  今回からその方法論を考えていきます。 出島方式では、最も経営がうまくいっていると思われる海外拠点を一つ選んで、そこを徹底的に磨き上げることになります。 残念ながら、中小企業において経営がうまく行っている海外拠点というのはなかなか無いのが現実です。 「一番マシ」な海外拠点を選ぶというのが実態です。 その「一番マシ」な海外拠点ですら利益がほとんど出ていなかったり、実質赤字というケースも多いでしょう。 
 
 大まかなスケジュールとして、止血(リストラ)1年、まともに成長できる組織にするための仕組み作りに2年、仕組みを定着させて持続的成長軌道にのせるのに2年と、5年がかりの仕事になります。 本当はもっとスピード感を持ってやりたいところですが、私の経験では現実的には本社からのサポートはあまり期待できず(サポートできる人材が育成できていないため)、現地トップが孤軍奮闘することになりますので5年でできればまずまず成功と考えるべきです。
 
 そして、次が一番重要な点ですが、選んだ拠点のトップを誰にするかということです。 最低限必要なレベルは、前回のコラムでいうとレベル2-1で実績を上げており、今後経営者を目指したいという強い志と覚悟を持った人材が必要です。 ここは絶対に妥協してはいけません。 社内にそういう人材がいてくれればもうけものですが、現実的には外部人材に頼らざるを得ないケースが多いと思います。 この段階で、「ああ、ウチももっと人材育成に力を入れておけばよかった」という企業も多いでしょう。 更に、日本はこういった人材が決定的に不足していますので、外から探すのにもかなり時間がかかります(半年から一年程度見ておいたほうが良いでしょう)。  そして、本当にいい人材が見つかったら待遇もフレキシブルに、現行の賃金規定に固執しないことも必要です(規定給与+成功報酬という契約も含めて)。 この人選に失敗するとあとあと大変な時間のロスになりますので、繰り返しになりますが妥協は禁物です。