中堅企業のためのグローバル化最適解を考察するブログ

中堅日本企業のグローバル展開をどう進めるのがベストか? 海外勤務22年のノマドビジネスパーソンが、同じ立場で悪戦苦闘されている方々の参考にしていただけそうな経験に基づく情報を発信してまいります。

出島人材の育成4:人材マネージメント制度の重要性6-①目標設定と評価

 前回少し触れたように、社員のパフォーマンスが悪い理由の半分程度は目標設定と評価がきちんとなされていないところにある。 その理由は以下のように私は推測している。 一般的に海外現地法人のトップに赴任して来るのは、比率として営業あるいは製造出身の人が多く、人事畑の人が来ることはまれである。 私が今まで所属した組織のすべてがそうであったし(私も営業出身である)、周囲を見回してもこういったバックグラウンドの方が現地法人の代表を務めているケースが多い。 本社は海外売上高を拡大する、海外生産を順調に立ち上げる、という至上命題を持っているのである意味自然な流れである。 ただ、例えば営業畑の人であれば、優秀な実績を上げていた人ほど個人技(≒トップセールス)で頑張ってしまうのである。 そうすると、ある段階までは成長させることができるがそのうち必ず限界がきて成長が鈍化する。 その段階で、社長がグイグイと引っ張る段階から、組織力を活かして成長を実現する段階(部下を通じて成果を上げる段階)に大きくかじを切らなければならない。 そのための第一段階が、目標設定と評価を緻密に行うことである。 
 
 緻密に実施することにより、パフォーマンスが悪く解雇しなければならないかもと感じた社員の結構な部分を救えることになる上、本当にやる気のない社員は耐えられずに1-2年で辞めていくことになる。 一石二鳥である。 なお、「目標設定と評価がきちんとなされていない組織」には、形式的には実施されているものの、中身が伴っていない(経営者が本気で運営していない)組織も含まれる。(現実的には制度が何もない組織より、こちらのほうが多いと感じる。)
 
 目標設定と評価の具体的方法に関しては、本社で運営しているものがそこそこ適切であると感じていれば、それに準じた制度を導入すればいいと思う。 また、この分野では人事のプロフェッショナルによる多くの著書があるので、それを参考にしてもいいであろう。 重要なのはトップが制度を本気で運営することである。 すなわち期初目標の設定、中間レビュー、最終評価というサイクルが定着するまでしつこくトップ自らが深く関与することである。 これをローカルマネージャーに丸投げしても決してうまくいかない。

出島人材の育成4:人材マネージメント制度の重要性5

 今回から、「組織に残ってほしい従業員にはできるだけ長く働いてもらう。(裏を返せば、残ってほしくない従業員には去ってもらうよう仕向ける。)」ための人材マネージメント制度とは具体的にどういうものか、どう構築していくかを考えていきたい。 基本的なおさえから始めると、制度上必要最低限の要素は ①目標設定と評価 ②報酬見直し ③等級と役割期待 ④報酬制度の確立 の4つである。 また、海外法人の責任者として会社業績を立て直しながら制度を改善(導入)していくケースを考えると、この順番で整備していくのが良いと思う。 


 本来ならば4つの要素を全部を一気に作り上げて導入するのが良いが、自分の経験では(外部から転職して海外現地法人の経営立て直しにあたっているケース)、会社存続のためにより優先順位が高い他の課題がどんどん現れてくるので、全部同時に取り組めないというのが現実であった。 また、そもそも私は人事のスペシャリストではなく、そういう経営者が人事制度を作っていくのであるから、色々と学んだり考えたりしながら試行錯誤を繰り返すというプロセスにならざるを得ない。 もともと営業からキャリアをはじめた私にとっては、人事関連の仕事には正直なところかなり苦手意識を持っており、できれば避けたい分野であった。 しかし、業績をV字回復からサステナブルな成長軌道に載せていくためには、しっかりとした人材マネージメント制度を確立、運営することは不可欠であるので、同じように苦手意識を持っている方もどうか諦めて取り組んで頂きたい。


 続いて、①から④の要素を一つずつ簡単に説明していく。 まずはじめに「①目標設定と評価」を持ってきたのは、そもそも社員のパフォーマンスが悪い原因のかなりの部分はこれができていないからである。 まず、パフォーマンスが悪い社員を否定する前に、そもそも会社が社員と話し合ってきちんと適切な目標設定をしているのか、期末(あるいは月次、四半期、半期)で結果をレビューしてフィードバックしているのかを経営者が考えるべきなのである。

出島人材の育成4:人材マネージメント制度の重要性4

 本題に戻り、前々回で述べた「人材マネージメント制度の重要性2 2)組織に残ってほしい従業員にはできるだけ長く働いてもらう。(裏を返せば、残ってほしくない従業員には去ってもらう。)」について具体的に説明したい。 私がマネージメントの仕事をしてきた北米、シンガポールとも、日本と比較して労働者の流動性がかなり高い国である。 こういった国でパフォーマンスの高い組織を作るためには、流動性の低い日本とは人材マネージメントに対する考え方を根本的に変えることが必要である。 残念ながら、実態は多くの日系企業の現地法人は適切な人材マネージメントができておらず、ぬるま湯的体質になってしまっている。 そうすると必然的に、そこで働く社員も楽をして適当にやっていこうという志向をもったスタッフばかりになりがちである(優秀な社員は転職してしまう。) こうなると、組織のパフォーマンスも上がらず業は低迷、その結果市場と比較して低い報酬にとどまらざるを得ず競争力を失い、優秀な社員が更に辞めてしまうという悪循環となる。 
 
 では、どのように考え方を変えれば良いのか? 誤解を恐れずにあえて結論を言えば、毎年の人事考課でパフォーマンスの低いほうから10%程度の社員が去っていく(できれば自主的に、だが時には解雇も必要。 しかし、解雇を実施する場合は当然のことながら、法律だけでなくその国の文化も考え、十分準備をして実施することが必要。 これはまた別の機会で述べたい。)、そこで生じた欠員はポテンシャルの高い人材で補充しているというのが健全な姿であると考える。 要は組織の新陳代謝が健全に行われているということ。 これは、私が自分の経験に基づいてたどり着いた現時点での結論である。 
 
 例えばシンガポールの場合。 以前人事関連のセミナーで、シンガポールのスタッフターンオーバーは平均十数%という話を聞いた。 この数字をベンチマークとして、これより大幅に高くても低くても、またこれに近い数字であってもハイパフォーマーが辞めていってしまうというのは、その組織の人事マネージメント制度がうまく機能していないと疑うべきである。