中堅企業のためのグローバル化最適解を考察するブログ

中堅日本企業のグローバル展開をどう進めるのがベストか? 海外勤務22年のノマドビジネスパーソンが、同じ立場で悪戦苦闘されている方々の参考にしていただけそうな経験に基づく情報を発信してまいります。

出島人材の育成3:必要なハードスキルとその習得方法2

 前回述べたように、ここで少し私自身の経験に触れ、仮に今もう一度やり直すことができればどうすれば良いかを考えてみたい。 大きく分けると以下のようになる。


第一期:大学時代後半
 漠然と将来海外で仕事をしたいと思い出し、本気で英語の勉強を開始した時期。(ちなみに、大学入試までは英語は一番不得意な科目であったが、今考えてみると別に学校英語の成績が悪くても、英語コミュニケーションの学習速度に大きな影響はないと思う。) 
 まずは当時できたばかりの英検準一級を目指すことにした。 幸運にも、アルバイト先の学習塾経営者の方が元英字新聞記者(Daily Yomiuri)で、その方から無料で直接個人指導していただいた。(そのかわり、私の検定試験の合格実績を塾の広告に使うという条件。) 運が良かったとしか言いようがない。 具体的な学習法は、1)英字新聞の記事を渡され、制限時間内で要約する訓練(英文和訳ではなく、記事の大まかな意味を説明する。)  その後、内容を逐語訳(英文和訳ではなく。 これは今考えてみると非常に有益な学習法であった。) 2)英語放送(VOA:Voice of America)のスペシャルイングリッシュというニュース番組(120語/分程度の、ゆっくりした放送)のディクテーション 3)英検対策の問題集・単語集(これは自習中心。 面接対策だけ少し指導していただいた。) 結果、約2年の学習で当時できたばかりの英検準一級になんとか合格。


第二期:入社~最初の転職(29歳)まで
 TOEIC(当時はまだ企業には今ほど普及していなかった。 信じられないような話だか。)のスコアを上げるため、いろいろな教材や学習法を試した時期。 また、会社に英語の先生(日本人で、アメリカの大学を卒業、そのままアメリカで就職して十数年仕事をして、その後日本に帰国した人。)が通って来ており、対面コミュニケーションは主にそちらで訓練していた。 週一回、3名一組のグループで、内容は主に新聞記事の英語訳とその内容に関する簡単なディスカッションである。 ただ、生徒の出席率があまり芳しくなく一人だけだったり、他のクラスで出席者がゼロのときはオマケでレッスンを受けさせていただいていた。 また、会議やプレゼンの言い回しも結構いろいろと教えていただいた。 
 仕事の方は、輸入化学品の営業とマーケティングをやっていたので、仕事では結構英語を使う機会があった。 転職までにTOEICスコアは875まで上がっていた。 自分では結構できるような気になっていた時期である。(が、その後アメリカに渡ったあとで自己認識の甘さに愕然とする時期が来る。)


(次回へ続く)

出島人材の育成3:必要なハードスキルとその習得方法1

 前回述べた3つのスキルのうちハードスキルに関して、どのようなスキルが必要かと、どうやって習得するのが最も効率が良いか、私の経験も含めて具体的に述べてみたい。 


 現地法人責任者の仕事というのは、一言でいえば売上・利益をできるだけ効率よく(コストを最適化して)、持続的に成長させることである。(「効率よく」「持続的」というのが非常に重要なポイント。) そのため必須となるスキルには以下とおりである。 


1.営業・マーケティング:
トップセールスは成長のための必要条件。 特に難易度の高い見込み顧客に関しては、トップがドアをこじ開け、具体的に進みだしたら部下にフォローを引き継ぐ流れが基本となる。(但しこれは十分条件ではない。 トップにいかに営業力があろうが、そればかりで組織マネージメントを疎かにしているといずれ限界がくる。 これはまたあとで説明する。)  


2.財務:
財務諸表から自社の強み、弱みを分析することが「効率よく」組織を成長させるためには不可欠。 「効率よく」というのは、売上・利益を最適化するためには、組織の状況によってどういう施策を優先するかが異なるからである。 経営の立て直しでは基本的には利益をV字回復させた後、売上の成長戦略に取り組むというのが基本型となるので、収益性や効率を把握する上で自社の財務分析は必須。 また、重要取引先(特に顧客)の収益性、安定性を評価する上でも財務スキルが要求される。


3.組織マネージメント:
組織の成果というのは、自分が影響を与えることのできるすべての人(社員&他のステークホルダー)の成果の総和である(Andy Grove著 High Output Managemen参照) 持続的に成果を上げるためには、持続的な社員の貢献が不可欠。 社員が最大限のポテンシャルを発揮して業績向上に貢献してくれる組織を作るために、トップが少なくとも半分の力を使うのが本来あるべき姿だと思う。(が、言うは易しで私もこの点はまだまだ力不足を感じている。)


4.ICT:
効率化を進めるための強い武器。 経営者にとって必要なのは、生産性を高めるために自社の仕事のどの部分にどういうICT技術を導入すれば良いかを判断できる能力である。 巷のITコンサルの言いなりだと、コストをかけたけど効果が出ないということになる。 そうならないための目利き力が必要。


 その他、状況によっては、生産、技術、法務等のスキルも必要になってくるが、実際にはとてもじゃないが一人でそこまで手が回らない。 よってこういった部分を任せられるスタッフを社内(本社も含む)に確保するか、外部に委託し、経営者としてモニターするのが現実的な方法である。


 次に、どうしたらこういった多種多様な経営スキルを効率よく習得できるか? 一番いいのはMBA(経営学修士)で、体系的に学ぶことであろう。 最近は仕事を続けながら学べる通信教育やパートタイムのカリキュラムも増えてきており、上記に挙げた科目はほとんどすべて必修科目に含まれている。 中小企業で自社カリキュラムを作るのは困難かつ効率も良くないので、外部プログラムの活用が現実的である。 


 次回からはご参考までに私自身の具体的な経験を少し述べてみたい。

出島人材の育成2:そもそも、海外現地法人責任者が成果を挙げるためには何が必要なのか?

 具体的な人材育成方法を考えるにあたって、まずこの点を明確にしておく必要がある。 大きく分けて3つある。


1.ハードスキル(≒IQ)
当然のことながら、海外現地法人責任者は「責任者」という肩書とそれなりの待遇を得ているのであるから、現地法人の経営に関して最終責任をすべて負う経営者なのである。 経営するためには会社の組織機能(営業、製造、財務、人事、法務等)全てに関して、経営者としての意思決定をできる最低限の知識やスキルが必要となる。 これに加え、近年ICT技術の進歩も著しくこの分野での知見も必要であり、経営者にとってはますます負担が大きくなってきている。 経営者である限り、一生スキル習得をし続けることは必須である。(逆に言えば、こういうスキルを持った経営者の価値はこれからますます高くなっていくであろう。)


2.ソフトスキル(≒EQ)
一言で定義するのは難しいが、敢えていえば「経営に関わるできるだけ多くのステークホルダーを味方につけ、成果を上げるために自分に欠けている能力を補ってもらえるようにする能力」である。 例えば、


1)社員の能力を最大限に引き出し、継続的に成果を上げるためのリーダーシップ


2)直接の上下関係がない本社や他拠点のスタッフ達がいろいろなサポートをしてくれるような、良好な人間関係を築く力(読者のみなさんも、直接の上下関係がなくとも、「あのひと(あるいはあいつ)から頼まれたことは、優先してやってあげよう」という人が何人か思い浮かぶと思う。 そういう力を持つことである。)


3)社外のステークホルダー、例えばお客さんやサプライアーさんが有形無形の援助をしたくなるような資質


といったものである。 ソフトスキルは1のハードスキルと比べるとその人の人間性や人格、人徳といった部分が大きい。 成功した経営者で「私は運が良かった」ということを言われる方が多いが、その人自身がこういった能力(魅力)を持っているが故に、廻りの人たちが有形無形の助けを与えてくれる(ときには本人も気づかないところで)、これが「運」の正体の一部であるようにも思える。


3.成果を挙げるためのコミュニケーション力
 2に含まれるようにも思えるが、特にグローバルな環境では語学力や異文化間のコミュニケーション力も極めて重要である。 日本人の場合せっかく上記1,2の能力があるのに、この部分で損をしているケースが非常に多いため、敢えて別項目とした。 自分で業務を遂行できるレベルの語学力だけではなく、異文化環境で良好な人間関係を維持しながら人を動かすための総合的なコミュニケーション能力である。


次回からは上記の一つ一つをもう少し掘り下げて考えていきたい。